〜基本手順〜
●器具は使用語、直ちに洗浄することをおすすめします。汚れの固着を防ぎ、洗浄、防錆効果も高くなります。
●洗浄後は器具を流水下ですすいだ後、完全に乾燥させてから各器具に適した方法で滅菌を行ってください。
①洗浄
■ 洗浄の重要性
感染を回避したいという思考から、消毒・滅菌ばかりを気にしがちで、洗浄を後回しに考えている方が多いようです。 器具は使用後すみやかに確実な洗浄を行うことで、 99.99%の物理的な除菌ができ、傷のない手で触れても感染の危険性はほぼゼロと言われています。洗浄によって消毒に近い効果が期待でき、感染リスクを低減させることができます。逆に不十分な洗浄はタンパク質の汚れが残留し、その中に多くの微生物が残存することになり、その後の消毒・滅菌を不完全なものにしてしまいます。
■ 使用直後の一次消毒の廃止について
使用後の器具を洗浄しないで消毒や滅菌を行う事は無意味です。
どのような薬液であってもタンパク質を変質固着させるため、その後の洗浄で除去が困難になります。一次消毒を繰り返し行うことは、器具のサビにもつながる行為ですので、お避け下さい。
※一次消毒の廃止については、日本医療機器学会より発表された「鋼製小物の洗浄ガイドライン2004」に記載されています。
器具を使用後、すぐに洗浄できない場合に、汚れの乾燥固着を防ぐため予備で行います
器具の使用後、すぐに洗浄液に浸漬できない環境(例えば訪問診療など)では、汚れが乾燥固着してしまいます。蓋つきの密閉容器に使用した器具を入れて器具全体にムラなくスプレーしておくことで、血液などの汚れの乾燥固着を防止し、その後の洗浄効果を高めます。
スプレー後は、本洗浄まで乾燥を防ぐため、蓋を閉めておいて下さい。
※洗浄スプレーに適した洗浄液であることを、取扱説明書等でご確認の上ご使用下さい。
※洗浄スプレーには「ゼットワンecoファインリキッド」をおすすめします。
器具に付着した血液やタンパク質を、洗浄液を使用して除去します
血液やタンパク質が付着した器具は、医療用防錆洗浄液を使用して、確実に除去して下さい。
洗浄液へ浸けることで、頑固な汚れや目に見えないタンパク質汚れを浮かすことが出来ます。
デリケートに扱わなければならない器具や、手の届かない部分がある器具にも適した洗浄方法です。
■ 手洗浄について
手用洗浄は手荒れ、外傷のもとであり、感染リスクも高くなります。ちから加減によっては、器具の損傷・変形にもつながりますのでお避け下さい。 また、クレンザー、ワイヤーブラシ、スチールウール等の使用も器具をキズつける恐れがあるため、行わないで下さい。
■ 洗浄の注意点
- ○器具は使用後すぐに、必ず洗浄を行って下さい。 汚れが乾燥固着して残っていると、滅菌・消毒の効果が低下したり、腐食する恐れがあります。
- ○ミラー、ペリオプローブは超音波洗浄器にかけないで下さい。また洗浄の際、他の器具との接触はお避け下さい。
- ○家庭用洗剤はデンプンなどの食品汚れをこすり洗いで落とすために開発されたものであり、血液中に含まれるタンパク質に対しては洗浄効果が期待できません。また着色剤や香料が含まれているため、それらの残存物が汚れの再付着や金属を腐食させることがありますので、ご使用はお避けください。
- ○酸性洗浄剤は金属に対する腐食性が強く、器具に影響を与えるため、お避け下さい。洗浄には医療用防錆洗浄液をご使用下さい。
- ○酵素系洗浄剤は酵素の働きを活性化するために、温度管理(40℃前後)の下で洗浄を行う必要があります。低温では洗浄効果が発揮できないため、恒温槽(保温槽)をご使用ください。
- ※洗浄には血液・タンパク質の溶解力があり、温度管理の必要がない医療用アルカリ性防錆洗浄液「ゼットワンecoファインリキッド」をおすすめします。
医療用アルカリ性防錆洗浄液
「ゼットワンecoファインリキッド」
②すすぎ
浸漬洗浄、超音波洗浄の後は、すすぎを十分に行ってください。
洗浄液から引き上げた器具には、洗浄液と溶解した汚れが付着した状態です。そのまま乾燥してしまうと汚れの固着にもつながり、関節のある器具は隙間に汚れが残留してしまいます。
器具のすすぎには不純物を完全に除去した純水が理想的です。
水道水は飲料水にするため、主に塩素系の消毒液を含有しています。
水道水を洗浄に用いた場合、水の中に含有される塩素により金属を腐食させる恐れがあります。またミネラルなど微量の不純物が付着して残り、シミやサビの原因となります。
また、老朽化した水道管を通ってきた水に含まれるサビの粒子も金属に付着するとサビや腐食の原因になります。
③乾燥
洗浄、すすぎ後は、速やかかつ完全に乾燥させて下さい。
水分が残っているとサビ、シミ、ヤケの原因や滅菌効果を低下させてしまいます。
器具の水分を拭き取る際は、キズをつけないように糸屑のでないやわらかい布などで、こすらずに水分を除去することをおすすめします。
④滅菌・消毒
●汚れが十分に除去されたことを確認してから、滅菌・消毒を行ってください。
●滅菌・消毒は器具に適した方法で「オートクレーブ滅菌」「EOG滅菌」「グルタラール製剤」等を使い分けてください。
熱に耐えられる全ての器具の滅菌(サビてしまうものは除く)
オートクレーブ滅菌はチャンバー内で適当な温度と圧力の飽和水蒸気の中で加熱、発生した水分が、タンパク凝固を促進して微生物を死滅させます。
滅菌温度及び、乾燥温度がメーカー推奨温度を超えないように設定して下さい。推奨温度を超える機器をお使いの方は、乾燥工程を行わずに予熱で乾燥させて下さい。高温の乾燥は器具の性能を低下させる恐れがあります。
個々の器具により耐熱温度が異なりますので、製品情報をご確認の上、滅菌を行って下さい。
●利点
・温度上昇が早く、蒸気の浸透性があるので深 部まで効果が及ぶ。
- ・芽胞に対しても確実性が高い。
- ・留毒性がない。
- ・ランニングコストが安価。(経済的)
●欠点
- ・湿熱による器具の変質。
- ・空気排除を完全にしないと滅菌効果が低下。
- ・非耐熱性器具は滅菌できない。
注意点
- 滅菌器の庫内に器具を詰め込みすぎず、蒸気が上から下へ通りやすいように配列して下さい。ヒーター(熱源)の近くは、設定温度以上になる場合があります。製品の耐熱温度を確認し、特に樹脂製品はヒーターから遠ざけてご使用ください。
- オートクレーブ滅菌はできるだけ純水をご使用ください。水道水は飲料水にするため、主に塩素系の消毒液を含有しています。水道水を洗浄に用いた場合、水の中に含有されれる塩素により金属を腐食させる恐れがあります。また、ミネラルなど微量の不純物が付着して残り、シミやサビの原因となります。
- アルコール等の薬剤を用いて行うオートクレーブ滅菌は、製品の素材を腐食する原因となりますので、使用をお避け下さい。
■オートクレーブ滅菌器の庫内清掃について
オートクレーブ滅菌器は定期的に庫内の清掃をおこなって下さい。庫内が汚れたまま滅菌をおこなうと、器具のサビ、シミ、ヤケの原因となります。オートクレーブ滅菌器の清掃方法については、取扱説明書等に従って下さい。
- ※下記は、「口腔内撮影ミラー」を清掃前の汚れた庫内で滅菌した場合と、清掃後のきれいな庫内で滅菌をした場合の鏡面状態です。
鏡面に茶色いシミが発生。シミの中には焼付きをおこしているものもあった。
鏡面にサビ、シミ、ヤケなどは発生しなかった。
熱に耐えられない器具や、オートクレーブ滅菌ではサビてしまう器具の滅菌
エチレンオキサイドガス(EOG)により微生物を構成するタンパク質をアルキル化させ、菌を死滅させます。
●利点
- 低温滅菌ができるため、加熱による材質の変化が少ない。
- 非耐熱性器具も滅菌できる。
- EOGは浸透圧が高いため、包装やシールをしても滅菌可能。
●欠点
- 滅菌時間が比較的長い。
- 所要コストが高い。
- エアレーション(滅菌後の滅菌器内部ガス濃度低減処理)に時間がかかる。
- 残留毒性が高い。
注意点
- 平成13年の労働安全衛生法の改正により、滅菌作業等に使われているエチレンオキサイドガス(EOG)を取り扱う施設(医院)に対するさまざまな義務づけが適用されているので、注意が必要です。
熱に耐えられない器具や、オートクレーブ滅菌ではサビてしまう器具の滅菌
市販の消毒薬の中には除菌や殺菌などといった表現で、かなり低位の消毒剤が多く販売されています。
器具類の薬液消毒には広い抗微生物スペクトルと強い殺微生物力のある高水準消毒薬の使用をおすすめします。
グルタラール製剤(グルタルアルデヒド)は、ほぼすべての微生物を死滅させることのできる薬液消毒薬です。
特別な器具も必要とせず、比較的安価なことから非耐熱性の器具の消毒には導入しやすい方法です。
ただし、取扱いについては2005年 3月に厚生労働省から通知が出ていますので、必ずご確認下さい。
現在、日本医薬品集で調べると10数社から20種類以上のグルタラール製剤が販売され、日本では実用濃度が
2.0~3.6%の溶液で使用するようになっています。
グルタラール製剤の最小有効濃度は1.0~1.5%とされており、通常2.0%溶液での使用では、1週間程度で液の交換が必要になります。
2005年3月に厚生労働省から出された通知によれば、グルタラール製剤を使用して消毒作業をする場合、作業室内のグルタラール濃度が0.06ppmを超える時は換気など有効な措置を講ずるような努力規定が示されています。
WHOではグルタラール製剤は30分以上浸漬するとなっていますが、最近の製薬会社のインフォメーションはどれも使用基準が
1)体液が付着した器具類は1時間以上
2)体液が付着しない器具類は30分以上
と統一されているようです。歯科治療の場合は体液(唾液も含まれる)の付着は避けられませんので、1時間以上の浸漬をおすすめします。
注意点
- 薬液消毒後にはすすぎを十分に行ってください。
- 薬液は、メーカーの取扱説明書に従ってご使用ください。
- 次亜塩素酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキジン、ヨードチンキ、ヨードホルム、過酢酸は金属腐食を起こす恐れがありますので、使用をお避け下さい。
- 超酸性水(酸化水)等、機能水による殺菌は、器具の素材を腐食させるため、使用をお避け下さい。
- ホルマリン、フェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、消毒用エタノール、イソプロパノールは樹脂素材を変質させる恐れがあるため、樹脂製器具への使用をお避け下さい。
⑤乾燥・保管
- ●滅菌・消毒後は器具を完全に乾燥させて下さい。滅菌パックなどを使用される場合も、乾燥後にパック内に水分が残っていると十分な滅菌効果が得られない場合があり、サビの原因にもなります。
- ●サビのある器具や、異なる金属の器具と一緒に保管しないで下さい。サビる恐れがあります。
- ●化学薬品と一緒に収納、保管しないで下さい。 サビる恐れがあります。
- ●樹脂製品は紫外線殺菌を行わないで下さい。変質、劣化の恐れがあります。
- ●器具の保管は、歯科医療従事者以外の方の手の触れない安全な場所にして下さい。
■洗浄〜滅菌・保管中の器具について
より確実に細部まで洗浄・滅菌がされるように、分解できるものは出来るだけ分解し、鉗子などの関節部や持針器などのロック(止め)部は開いておきます。
また、使用時以外はロック(止め)部を開放することで、常に器具に応力がかかった状態にならないため、応力腐食割れや金属熱膨張による破損を防ぎます。保管の際もロック(止め)を開放することをおすすめします。
■関節のある器具への注油について
器具は金属である以上、動く部分には潤滑油が必要です。
潤滑油がなくなると動きが悪くなるばかりか、固着してしまうこともあります。
一度固着した器具に注油をしても内部でキズがついているため、完全に戻ることはありません。
また、注油により関節の細部まで油が染み渡り、薬液や水分が入ることを防いで保護されるため、防錆効果にもつながります。
関節内部からサビが発生すると、外観からは判断できません。
内部で少しずつサビが進行し、ある時、真っ二つに割れてしまいます。
注油は洗浄乾燥後、滅菌前に行ってください。また、毎回の注油が最良です。
※注油には医療器具専用防錆潤滑油「インスツルメントオイル」をおすすめします。
■新品をご使用前の洗浄・滅菌について
鋼製器具は製造後にクレンジング処理を行い洗浄しておりますが、オートクレーブ滅菌の高圧蒸気により汚れが浮き出て焼きつく恐れがあります。新品をご使用前には洗浄力の高い医療用アルカリ性防錆洗浄液にて洗浄を行って下さい。
特に鉗子等の関節のある器具は、完成時に関節部へ防錆潤滑油を塗付しておりますので、保管中に酸化したオイルを除去し、新たに医療器具専用防錆潤滑油を注油してオートクレーブ滅菌を行って下さい。
○超音波洗浄(※1)
→ すすぎ → 乾燥 → 注油(※2)
→
オートクレーブ滅菌 → 乾燥・保管
※1
ミラー等、超音波洗浄ができない器具は浸漬洗浄を行って下さい。
※2
関節のある器具についは注油を行って下さい。
医療器具専用防錆潤滑油
「インスツルメントオイル」